ノーコード自動化の実力を最大化するには「中間処理」がカギ
Zapierを使ってメール通知やスプレッドシート連携を自動化した経験がある人は多いでしょう。しかし、「単純なトリガーとアクションだけでは思ったように動かない」「条件分岐やデータ整形ができない」と感じたことはありませんか?
Zapierの真価は、単なる連携ツールではなく、“業務ロジックをノーコードで組める”ところにあります。その中心にあるのが Formatter(データ整形)・Paths(条件分岐)・Looping(繰り返し処理) の3つの機能です。これらを自在に使いこなせば、まるでプログラミングをしているかのように複雑な自動化を構築できます。
この記事では、AI活用や自動化業務に携わる人がZapierの中級〜上級機能を“実務で使い倒す”ための考え方とレシピを紹介します。
「Zapierが思い通りに動かない」原因の多くは中間処理にある
Zapierを使い始めた多くの人が最初にぶつかる壁は、「アプリ同士をつなげただけでは意図したデータが流れない」という問題です。
たとえば以下のようなケースがあります。
- ChatGPTの出力が改行や余分なテキストを含んでしまい、Googleスプレッドシートにきれいに入らない
- フォーム送信データを条件によって異なる宛先にメール送信したいが、Zapier単体では分岐ができない
- 複数件のレコードを一括で処理したいが、Zapierは1件ずつしか対応してくれない
これらの問題を「Zapierの限界」と誤解する人もいますが、実際にはFormatter・Paths・Loopingを理解していないだけのことが多いのです。
Zapierはトリガーとアクションを直線的につなぐだけでなく、その間にデータ変換・条件判断・繰り返し処理を組み込むことで、まるでプログラムのように動かせます。
つまり、「Zapierを自動化ツールとして使う」のではなく、「Zapierでロジックを設計する」発想が重要なのです。
高度なZap設計を支える3つの中核機能の全体像
Formatter(整形ツール)
Formatterは「入力されたデータを、次のステップで扱いやすい形に変える」ための機能です。
主なカテゴリは以下のとおりです。
| カテゴリ | 主な用途 | 例 |
|---|---|---|
| Text | 文字列の整形・分割・置換 | ChatGPTの回答から特定の行だけ抽出 |
| Numbers | 数値変換・計算 | 売上金額の消費税計算や端数処理 |
| Date/Time | 日付変換・加減算 | タスクの締切を自動で+7日後に設定 |
| Utilities | リスト操作・JSON変換 | まとめられたデータを分割して処理 |
特に「Text」と「Utilities」はAI連携やスプレッドシート処理でよく使われます。
たとえば、ChatGPTの出力結果から不要な説明文を削除したり、カンマ区切りのデータをリストに変換したりするなど、後工程の精度を高める役割を担います。
Paths(条件分岐)
PathsはZapierの中で「もしAならこの処理、Bなら別の処理」という分岐を作る機能です。
従来はZapを分ける必要がありましたが、Pathsを使えば1つのZapで複数のルートを処理できます。
代表的な活用例:
- 顧客属性に応じて異なる担当者にSlack通知を送る
- 請求金額が10万円以上なら承認フローを挟み、未満なら自動発行
- ChatGPTの出力内容に特定のキーワードが含まれる場合のみ次ステップに進む
Pathsでは、条件式を複数重ねることも可能です。
たとえば「金額 > 100000 かつ 顧客タイプ = 法人」のように複合条件を設定すれば、より精密な自動化ロジックが組めます。
Looping(繰り返し処理)
LoopingはZapierの中でも比較的新しい機能で、「リスト内の要素を1件ずつ処理する」ために使います。
たとえば、1つのスプレッドシート行に複数のメールアドレスが含まれている場合、それぞれに個別にメール送信するといった処理が可能です。
Loopingの実用パターン:
- ChatGPTが出力した箇条書きリストを1行ずつ処理してスプレッドシートに登録
- APIレスポンスで取得した複数レコードを1件ずつSlack通知
- アップロードされたCSVデータを分割して処理
Zapierでは以前、繰り返し処理が苦手とされていましたが、Loopingの登場で一気に柔軟性が高まりました。
この機能を理解すれば、「Zapierではできない」と思っていた処理の多くが可能になります。
Formatter・Paths・Loopingを組み合わせるとZapierは別物になる
3機能を単体で使っても十分便利ですが、真価を発揮するのは組み合わせた時です。
以下のような構成を考えてみましょう。
例:Gmailの添付PDFを受信 → ファイル名をFormatterで整形 → 金額条件でPaths分岐 → 各ルートでLooping処理してfreee請求書へ登録
この一連のZapを組むことで、Gmail→スプレッドシート→freee請求書といった複雑な業務フローが、まったくのノーコードで動くようになります。
しかも、途中で金額や取引先名による条件分岐が可能になるため、事務担当が行っていた仕分け作業を完全自動化できるのです。
このように、ZapierのFormatter・Paths・Loopingを理解すると「APIやプログラムを使わずに業務システムを設計できる」レベルに到達します。
つまり、ノーコードの範囲を超えて“ローコード的な自動化思考”が身につくのです。
よくあるつまずきポイントと設定のコツ
Zapierの中級機能を使う際に、特に多いミスや混乱ポイントを整理します。
| よくある課題 | 原因 | 解決のヒント |
|---|---|---|
| Formatterで日付がズレる | タイムゾーン未設定 | “Input/Output Format”を「Asia/Tokyo」に統一 |
| Pathsで条件が動かない | 型が一致していない | 数値比較ではText→Number変換を忘れずに |
| Loopingで項目が認識されない | リスト形式で渡っていない | Formatter → Utilities → “Line-itemizer”で変換 |
| Zapが途中で止まる | 条件分岐に該当なし | デフォルトルートを設定しておくと安全 |
設定のポイントは「データ形式を常に明示的に整える」こと。
Zapierは裏でJSON構造を扱っているため、見た目が同じでも“型”が違うと動きません。Formatterで「型を揃える」意識を持つと、トラブルが激減します。
実務で活きるZapierレシピ例①:AI出力をスプレッドシートに整形保存
たとえばChatGPT APIからの出力をそのままGoogleスプレッドシートに書き込むと、改行や装飾が混じって見づらくなりがちです。
そこでFormatterを組み合わせることで、自動的にきれいな表形式に整えられます。
構成例:
- トリガー:OpenAI(ChatGPT)からの出力
- Formatter(Text):不要な改行や余分な語句を削除
- Formatter(Utilities):改行ごとにリスト化
- Looping:1行ずつスプレッドシートに登録
これにより、ChatGPTの生成テキストを「一問一答形式」や「リスト形式」で整理して保存することが可能です。
ノーコードのまま、AIコンテンツを構造化データとして蓄積できる点は大きなメリットです。
実務で活きるZapierレシピ②:顧客条件で分岐する自動返信メールフロー
問い合わせフォームなどで自動返信メールを送る場合、顧客の内容によって返信文を変えたいケースは多いものです。
このような「条件分岐」には、Paths機能が非常に有効です。
構成例:
- トリガー:フォーム送信(例:Googleフォーム、Typeformなど)
- Formatter(Text):入力内容を整形・不要語を削除
- Paths:
- パスA:法人 → 定型の営業メールを送信
- パスB:個人 → 丁寧な案内メールを送信
- パスC:特定キーワード(例:「見積」)→ 営業担当にSlack通知
この仕組みを導入することで、問い合わせ対応の一次処理を完全自動化できます。
特に、AIが生成したテンプレートメールと組み合わせれば、
「顧客属性×キーワード」に応じた動的メール送信がノーコードで実現します。
実務で活きるZapierレシピ③:スプレッドシートの複数行データを一括処理
Loopingの真価は「複数件のデータをまとめて処理できる」点にあります。
たとえば、スプレッドシートで「請求書データ」を複数行まとめてfreeeやNotionに送るようなケースです。
構成例:
- トリガー:スプレッドシート更新 or 指定範囲の取得
- Formatter(Utilities):セルをリスト化(Line-item化)
- Looping:1行ずつfreee APIまたはNotionに送信
- Formatter(Date/Time):日付をfreeeフォーマット(YYYY-MM-DD)に変換
- アクション:freee請求書作成 or Notionデータベース登録
こうしたZapを作れば、たとえば「請求書発行リストをZapierが毎週チェック→自動発行」といった業務も可能になります。
会計・請求業務の自動化を目指す税理士事務所やフリーランスには特に有用です。
実務で活きるZapierレシピ④:AIワークフローの自動整形と再利用化
最近ではChatGPTやClaude、Geminiなど複数のAIモデルをZapierでつなぐケースも増えています。
ただし、AI出力は構造が一定でないため、そのまま次の処理に渡すとエラーになりやすいのが難点です。
この問題を解決するのがFormatter+Pathsの組み合わせです。
構成例:
- トリガー:ChatGPTが生成した文章を受信
- Formatter(Text):不要な語句・装飾・記号を削除
- Formatter(Utilities):JSON形式に変換
- Paths:構造が正しい場合→次ステップ/誤りがある場合→再生成リクエスト
- Looping:構造化データを要素ごとにスプレッドシート登録
このZapをテンプレート化しておけば、AI出力を安全かつ再利用可能な形に整えられます。
特に、AIライティング・SEO記事・SNS投稿などを自動化している場合、
この「整形・分岐・登録」レシピは業務効率を飛躍的に高めます。
高度なZap設計テクニック:FormatterとLoopingの合わせ技
より柔軟なZapを作るには、FormatterとLoopingを組み合わせて“多段構造”を作ることがポイントです。
【例】顧客データのバッチ処理
- スプレッドシートの1セルに複数顧客データ(カンマ区切り)を入力
- Formatter(Utilities)でリストに変換
- Loopingで1件ずつ顧客登録APIを実行
- 各顧客の登録結果をFormatterで整形し、Slackへ要約通知
この構成では「1入力→複数処理→1出力」が可能になります。
つまり、Zapierが中間サーバー的な役割を果たすわけです。
また、Looping内でさらにFormatterを使うことで、1件ごとに異なるデータ変換を適用できます。
たとえば、メールアドレス形式を正規化したり、金額データに通貨記号を付けたりすることも簡単です。
Pathsを使った“条件つきAIフロー”の構築
AIとZapierを組み合わせると、Pathsが非常に強力な「自動意思決定エンジン」になります。
以下はよくある応用例です。
| 条件 | 処理内容 |
|---|---|
| ChatGPT出力に「エラー」や「不明」が含まれる | 再生成APIを呼び出す |
| AIの信頼スコアが80以上 | スプレッドシートへ登録 |
| 信頼スコアが80未満 | 担当者にSlack通知して人間確認 |
このようにPathsを“AIのジャッジ機能”として活用すれば、
AIワークフロー全体の精度と安全性を飛躍的に高められます。
Zapierで自動化を組む際に意識すべき3つの設計思考
Zapierの高度な機能を活かすうえで、単なる設定テクニック以上に重要なのが「設計思考」です。
① 入出力データを常に意識する
Zapierでは、前のステップの出力(Output)が次のステップの入力(Input)になります。
つまり、Formatterを“変換関数”として挟む意識を持つと、Zap全体が安定します。
② 条件分岐を最小限に設計する
Pathsを過剰に増やすと管理が複雑になります。
同様の処理はFormatterでまとめたり、Loopingでまとめて処理したりする工夫が有効です。
③ 再利用性を高める
Zapを「再利用できるテンプレート」として設計すると、他の業務にも横展開できます。
特に、命名規則(Zap名・変数名・シート名)を統一すると、保守コストが激減します。
AI連携時代のZapier活用:人とAIをつなぐ“中間ハブ”として
ChatGPTやClaudeなどの生成AIを業務に導入する企業が増える中、Zapierは「AIと人の間をつなぐ中間層」としての価値が高まっています。
たとえば以下のような自動化が考えられます。
- AIで作成された請求書データをFormatterで整形 → freeeに送信
- ChatGPTが生成した記事案をPathsで判定 → 良質ならNotionへ、要修正ならSlackで通知
- 複数AIモデル(ChatGPT/Claude/Gemini)をLoopingで順番に呼び出し、最良の結果を選択
つまりZapierは、単なる「連携ツール」ではなく、AI業務の司令塔に進化しているのです。
ノーコードながら、業務ロジックの中心として十分通用するレベルに達しています。
まずは自分の業務をZapierで1つだけ再設計してみよう
ZapierのFormatter・Paths・Loopingを理解しても、最初から完璧に使いこなす必要はありません。
重要なのは「小さく試して大きく展開する」ことです。
実践ステップ:
- 現在の手作業の中で“繰り返し”や“条件分岐”がある部分を見つける
- Zapierでその業務を再現してみる
- データの整形(Formatter)→条件判断(Paths)→繰り返し(Looping)を順番に試す
- エラーが出たら「どのデータ形式が合っていないか」を確認
- 一度成功したZapをテンプレート化して他業務にも展開
このプロセスを繰り返すうちに、Zapierを「業務設計ツール」として自然に扱えるようになります。
AIやノーコードの自動化が進む今こそ、「中間処理を制する者が自動化を制す」と言っても過言ではありません。
まとめ:Zapierを使い倒すための視点
| 機能 | 主な役割 | 使いどころ |
|---|---|---|
| Formatter | データの整形・型変換 | ChatGPT出力やスプレッドシート前処理 |
| Paths | 条件分岐・分ルート処理 | 顧客タイプや金額条件での分岐 |
| Looping | 繰り返し処理 | 複数データの一括処理・AI結果の反復分析 |
3機能を使いこなすことで、Zapierは単なる連携ツールから「業務自動化プラットフォーム」へと進化します。
そして、それを設計する人こそが、AI時代の“オートメーションデザイナー”と呼ばれる存在になるでしょう。

